四、白山神社の白蛇(しろやまじんじゃのしろへび)

今こそ跡も形も無い所だが、昔ながらの言い伝えを残しているものは随分多い。人は今、現在形に残っている物は、それを失うまいとしてつとめ、不幸既に失われた物に対しては、当時の人々の無知をののしったり、残念がったりしてひとしお懐かしむものである。これに似たものが南町のほぼ中心にある。
   
 それは今の屋台蔵の所である。その昔、倉賀野神社の認可申請に当たっては、五社合併ということが是非とも必要なことであった。


 白山神社と弥栄神社とは随分前からここ南町の人達の守神として信仰を集めていたが、いよいよ飯玉様に移されることとなりとうとう実現されたのであった。神社の建物は取り壊され、大木は切り倒された。
 この切り倒されていった大木の中に、ひときわ大きな木があった。この木の中に住んでいたという白蛇についての伝説である。
 木の太さは目通りでさえ大人が五、六人も手を組合せなければ一周り出来なかったと古老が言っている。しかもこの大木の中程は雷の為に物凄く打抜かれたかと思われる様に、黒く空洞になっていて、それが根元のところで大きく割れ外へ現に出ているのであった。
 ところがこの大きな虚の中へ、何時から入ったものか、それとも前からいたものか、一匹の小さな白蛇が住んでいたという事である。この白蛇は殆ど外へ出た事もなく、従って姿などを見せた事はなかったと言うが、何時誰が見たものか、次第次第に評判になって行った。そして、噂は噂を生んで行った。

「あの白蛇の姿を見たものは一生眼の病にかからない」
とか「あの白蛇に歯を見せると口の中の病にかからぬ」
とかこんな事が云われる様になった。それが何時とはなしに信仰に迄なって来た。

「歯の病を治す神様。口の中をよくしてくれる神様だ。」と、いう様になった。それからというものは、時々子供の歯が抜けたからと言ってはこの穴へ入れ。虫歯になって痛むからといっては願かけをする様になったとか。また朝など顔を洗う前に、よくこの白山神社の大木の根方へ来ては歯を磨いていたといわれている。それが毎日毎朝、誰かしら来ていないものはなかったそうだ。
始めは男も女も同様に信仰していたが、終いには、どうした事か女の人達ばかりになって、稀にしか男の人の姿は見られなかったということである。

 生い繁る大木の境内、そこに鎮まる社、それだけでさえ神秘そのものなのに、白蛇が棲むとか、しかもその白蛇はついに神の存在となって、多くの人々の信仰の目標(めあて)となったなど、如何に伝説とは言え不思議な物語を残したものだ。この辺の古老は今でも単なる伝説としてこの物語を聞き流していない。そしてどこまでも信じている。

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