二十、井戸八幡(いどはちまん)

もとは木部城主に仕えていた田口次郎左衛門辰政も、今は官を退いて年久しくなりました。寄る年波に頭髪も白さを増して参りましたが、日頃心穏やかな辰政は、何の苦もなくその日を楽しんでおりました。
 辰政は、大変神信心の厚い人でした。
 ある日の事、今日も一日の仕事を終えて、鍬を肩に我が家へ来かかりました。すると、1羽の鳩が舞い込んでまいりました。不思議に思って鳩を見守っておりますと、二度三度軽く舞った鳩は、さあっと屋根に止まりました。ぴかっと一条の光が眼を射ったかと思うと、鳩の姿はすうっと消えてしまいました。

余りの不思議さに強く心を打たれましたが、辰政はただ心深く秘めておいて誰にも語りませんでした。
 その年も暮れて新しい年を迎えました。
正月の二日、辰政は再び不思議に襲われました。
深夜1羽の鳩が現れて辰政に向かい「お前は私を知っているか。」と、言いました。そしてまたも燦然と光り輝くと見る間に、一条の淡い光を投げて、古城三の廓のほとりへ飛んでゆきました。
 それから幾日か過ぎたある日、夜中に大地震がありました。ごうっと物凄い響が古城の方向から聞こえて来ました。辰政は益々不思議でなりませんでした。翌朝農夫が、三の廓のほとりに、清水が湧いていると報じて来ました。辰政は日頃神のお告げを思い出し、急いで現場へ駆けつけました。すると清らかな水が、こんこんと音をたてて湧き出しておりました。その後、この清水はどんな日照りの時にも絶えることがありません。渇を覚えてその水を飲むと、不思議に何ともいえない爽快な感じになりました。
病気の人が飲むとたちまち全快してしまいました。それから誰いうとなく、これは御神水であるという事になりました。

 ある時、村の人がこの井戸替えをすることになりました。ところがいくら汲み出しても水が尽きません。とうとう井戸替えは中止することになりました。
 その時一人の村人がどの位水があるのかと中を探って見ますと何だか硬いものが足にさわりました。拾い上げて見ますと何とそれは八幡大菩薩の尊像でありました。この尊像はその昔、倉賀野城主が兜の八幡座に収めていたものでありました。

現在の井戸八幡宮

この尊像のために、水に不思議な霊験のあることがわかりました。これはおろそかに出来ないと思って、社を建てて祀ることになりました。
 これが井戸八幡の社です。
 一説にいう。
 井戸八幡の井戸の中へは倉賀野落城の際、城の宝物たる巻物を投げ入れた。と。